雨のパレード BORDERLESSの「新鮮さ」という言葉に隠された過去の削除について
僕は雨のパレードの音楽を今まで聴いてこなかった.残響レコードに自分から売り込み,瞬く間に人気を勝ち取っていったくらいしか知らなかった.
Spotifyユーザになり,雨のパレードの新譜が出たという表示があったので,聴いてみた.
アルバム名は「BORDERLESS」,日本語訳で「境界がない」
境界がないのは,良い意味か悪い意味か.
今までの雨のパレードの概念が僕の中になかったため,「こ,これが雨のパレード...?かつて残響系として存在したバンドがこれ?」と理解が追いつかなかった.
1.BORSERLESS
「自分の力なんてこれ以上ありはしないだなんて諦めないで
繰り返す日々の中で弱気な考えに怯えて不安に駆られいつも迷いながらもあなたの足でここまでやってきた」(BORDERLESS」/雨のパレードより引用)
wo-wo-wo-wowo-wow-から始まるこの曲は,どう考えても残響系だったころの面影はない.コカコーラのCMかと思った.もしくはオリンピック.作り出された熱狂.
遠回しに「君の可能性はこんなもんじゃない」と歌っているんだけれど,とても苦しかった.
僕はこの曲を仕事からの帰り道に聴いていたんだけれど,辛かった.
どの位置からこの詩とも呼べないような言葉を発しているんだ.
この歌を聴いて,雨のパレードのファンは熱狂しているのか...
とても悲しくなった.節操ないな.
「We go...」じゃないよ,まったく.
2.Summer Time Magic
「wo-wowowo-wowowowo-wo-寄せては返す儚い恋」
「エムエージーアイシー Magic for me」
(Summer Time Magic/雨のパレード より引用)
寄せては返す波を恋の隠喩として用いるなんて昔から多用されている表現じゃないか.
英語の頭文字を歌うなんて...
3.Story
「ふたり紡いできたこのStory 僕のせいで君を泣かした夜」
「確かめ合うように 口づけよう Darlin'(ダーリン)」
(Story/雨のパレード より引用)
いつからこんなありきたりで何の個性のない音楽になってしまったんだ.
「このStory」って歌うのはカップルを泣かせるための曲を作る音楽家たちだけだぞ.
4.Walk on
「色んなことに慣れてしまい何かを失ってる僕の心
憧れたこの街に理想の自分が待っていると思っていた
...
あれから少しぐらい
理想の自分に近づけたのかな」
(Walk on/雨のパレード より引用)
今の音楽,自分たちの状況,これこそが理想に近しい状況ってことなのか.
曲解説でもないので,このあたりでやめるけれども,一応全部聞きました.
批評というのは,全体を見た上で判断するというのが僕のモットーであるからです.
1部分を見て100を知った気になっている人が多い.僕は死ぬまでそうはなりたくない.
1アルバムを通して,やはり感じたのは絶対的な「世界が味方している感」「自分のしてきたことを全部信じていこうぜみんな」という印象.
「黎明をさまよう浮浪者
地面にへばりつくビル
鉛のように沈黙するゴミ
色めきだった景色の隙間を縫うように
それは君の心を占領していく
それらは時に人を狂わせるほど美しい
人々の抱いている価値観は多様
しかしランダムな分布ではない
国や地域や文化圏ごとに何らかの傾向がある
それは時代が気づきあげた圧倒的な伝統
大衆が作り出す熱狂への無抵抗
そう
至ってまともな感覚だ
その紙のようなペラペラの熱狂の中
君は全身を口にして辛辣な言葉を垂れ流す
その言葉は多くの者の琴線に触れ
また大衆を生み
飲み込み
膨らみ
熱狂していく
揺らぎ巡る君の中のそれ」
(10-9/sense 雨のパレードより引用)
今回雨のパレードが作った音楽は,「時代が築き上げた圧倒的な伝統で,大衆が作り出した紙のようなペラペラの熱狂」ではないだろうか.
少なくとも僕はそう思ってしまった.
しかし,今回のアルバムでは,この状況や心理的な感覚が,一番理想に近いと歌っている.
過去の言葉と現在の言葉が矛盾することは人間だから仕方がない.
ただ,ここまで変わってしまうのはどうなんだろうと思う.
自分が一番嫌っていた形に収束してしまったのではないか.
恐ろしいことだ.