ふるさとを持たない君の海になりたい
俵万智さんの俳句だ.
僕はこの言葉をつい最近知った.死ぬ前に知ってよかったと思っている.
「ふるさと」を持たない君
僕の知っているふるさとにたとえ海がなかったとしても
この言葉の中では,僕のふるさとには海があって
出会った君は知らないんだ,あの青さや美しさを
太陽の日差しを優しく照り返して
まるで宝石を散りばめたかのような青い海に
少し肌寒い風が吹いて
ふと潮の匂いに懐かしさを感じる.
近くでは地元の漁師が釣りをしていて,
「おーい,今日も生きのいい魚が釣れたぞ,見ていくか」と
僕に話しかけてくる.
日常の大部分にその海はあって,
海と共に過ごした.
僕は時間とともにその海にお別れをし,
鉄が連なる都会で君と出会った.
君は知らない,あの青さを.
だから,僕がなりたいんだ,君の青に.
それが,たとえ本物ではなくとも良いんだ.
君が僕越しに海を見てくれればそれで良いんだ.
僕を通して見た景色が,
どうか美しい青であってほしいと心から願う.
あんなに美しいんだ.君にも知ってほしい.
僕はあの街で育ったんだ.
秋には金木犀の香りがして,時間の流れがゆっくりなんだ.
こんな鉄に囲まれた世界が全てじゃないんだよ.
そうだ,今度電車に乗って遠くに行こうよ.